にいがた市民大学2021認知症とともに〜安心して暮らせる社会づくり ~Vol.4 9大法則・1原則

 当事者の行動を理解し、介護するための「9大法則・1原則」について、認知症の人と家族の会副代表理事で川崎幸クリニック(神奈川県)院長、杉山孝博さんが解説した。

 

認知症の人と家族の会副代表理事

杉山 孝博さん

 すぎやま・たかひろ 1947年、愛知県生まれ。東京大学医学部卒。川崎幸クリニック院長。81年から認知症の人と家族の会の活動に参加し、神奈川県支部代表を務める。「Q&Aでよくわかる認知症ケア解決ブック」(洋泉社)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)など著書多数。


 

行動理解 介護の混乱避ける

 

 「認知症の人と家族の会」の活動は41年目を迎えた。47都道府県全てに支部がある。「認知症は家族だけでなくみんなの問題である」「認知症になっても心は生きている」ことを社会に訴えてきた。

 認知症になっても終わりではない。介護が大変だと思うのは、認知症の症状を理解していないからだ。家族や介護者が症状を理解し、混乱しないために共通の特徴を抜き出し「法則」としてまとめた。


■「古い記憶」に戻る


 認知症になると、記憶障害が起こる。同じことを何度も聞くのは、本人が毎回、忘れているからだ。本人は初めて尋ねたのに、「いいかげんにして」と相手に言われれば気分を害す。毎回、初めて聞くように対応すれば、本人は穏やかな気分になれる。食べたことを忘れたときは、指摘しても混乱するだけ。バナナなど軽食を準備するとよい。 

 「逆行性喪失」の症状が出ると、最後に残った記憶がその人にとって現在となる。夕方、自宅にいるのに帰ろうとする女性は、昔に戻っている。古い家しか覚えていない女性にとって現在の自宅は「よその家」だ。帰ろうとするのは当然であり、全く異常ではない。

 「身近な介護者に対し症状が出る」「本人にとって不利なことは認めない」「正常な部分と症状が混在する」といった特徴にも触れたい。これらは「介護者を信頼しているからこそ安心して症状を出す」「上手にごまかすのは、能力低下を認めたくない自己保存の本能」といった理由がある。「家族にお金を盗まれた」(もの盗られ妄想)などの発言で周囲が混乱すること自体が認知症の症状だ。この点を理解しないと介護者は孤立してしまう。


■感情の世界に移行


 認知症の人は、言ったり、聞いたり、行ったことは忘れるが、感情は残像のように残る。一つのことにこだわるのも特徴だ。

 「風呂に入らないと不潔で病気になる」と勧めても、本人には「不潔」「病気」という言葉だけが残る。認知症の人は、理性の世界から感情の世界へ移っている。ではどうすればよいのか。台所で手伝ってもらったときは「ありがとう」と感謝し、もの盗られ妄想に対しては「少し借りていた」と謝り、演技する。

 こだわりが強い人には、原因を見つける。そのまましておくのもよいが、関心を別なことに向けたり、介護者以外の第三者に言ってもらったりすることも有効。失禁を防ぐことは難しいが、吸収シートをトイレの床に置けばよい。一手だけ先にいくことが大事だ。いずれにせよ症状は長期間続かない。

 記憶がなければそれは事実ではなく、本人が思ったことが絶対的事実となる。認知症が進行しても本人にはプライドがある。認知症の人の激しい言動を理解する必要がある。