にいがた市民大学2021認知症とともに〜安心して暮らせる社会づくり ~Vol.5 認知症当事者からの発信

 認知症の当事者が前向きに、生き生きと暮らせる地域の姿とは―。第5回は公開講座として行われ、認知症介護研究・研修東京センター研究部部長の永田久美子さん(三条市出身)と厚生労働省任命の認知症本人大使「希望大使」を務める柿下秋男さんが語った。

 

本人の声が地域を変える力に

認知症介護研究・研修東京センター研究部長

永田久美子さん

 


1960年、三条市生まれ。千葉大大学院看護学研究科修了。学生時代から認知症になってからも自分らしく生きられる地域社会をテーマに活動。東京都老人総合研究所を経て2000年から現所属。厚生労働省、経済産業省などの研究事業の委員も多く務める。 

 


 

 新型ウイルス禍による必要以上の外出制限や人と交流する機会の減少で認知症の本人が生きる力をそがれているケースが多い。生きる力をどう伸ばしていくか、専門的支援や地域の在り方が問われている。

 2019年に「認知症施策推進大綱」ができた。国を挙げ、保健や医療福祉だけでなく商店街や交通機関などいろいろな分野が一緒になって、認知症でも希望を持って暮らせる地域共生社会を目指そうという方向が打ち出された。

 認知症があっても自分の力を出し切り、自分らしく生き切ろう、悪化しても諦めたり、家族や専門職だけで抱えずに地域で支え合おうという考え方。地域の中で楽しみを見つけて前を向こうという発想だ。

 だが現実には古い考えが根強い。「認知症になったらおしまい」「地域に出てもらうと困る」―。こうした考え方をどう変えていくことができるだろうか。地域全体の考え方によって認知症になった後にどういう人生行路をたどれるかには違いが出てくる。

 実は新しい考え方への変革に大きな力を果たしているのが、認知症の本人たち自身だ。認知症になっても一緒に楽しく暮らす社会を作ろうと、体験や思いを自分の声で伝える動きが始まっている。

 厚生労働省は2020年1月、柿下秋男さんら認知症の5人を「希望大使」に任命した。大使をきっかけに地元版の大使も増えている。認知症になってもこんなこともやれるという先輩、仲間に会えると本人も家族もあまり落ち込まずに先が開ける。隠していては損だと学べる。

 全国では認知症になった人が特性を生かして働き、報酬を得る動きも広がる。周囲の意識を変える経験者としての前向きなメッセージを出せるのは本人しかいない。本人が思いや知恵を地域の中で堂々と語れるのが当たり前、本人の理解者・応援者が増える、という光景が新潟でも広がってほしい。それが家族が楽になるための鍵でもある。



 


人とつながり、新たな人生


日本認知症本人ワーキンググループメンバー

「希望大使」柿下秋男さん

(パートナー・柿下房代さん)


 かきした・あきお 1953年生まれ、静岡県出身。東京・大田市場に勤めていた2014年、アルツハイマー型の軽度認知障害(MCI)と診断される。16年退職。20年に厚生労働省「希望大使」として任命され、全国で認知症啓発のための発信を続けている。





 認知症になったが、いろいろな人と会い、つながって楽しい人生を歩んできていると思っている。その一端をお話ししたい。

 受診のきっかけは、大田市場(東京)で働いていた時。上司が私の目を見て「大丈夫か」と言ってくれた。ちょっとおかしいと見えているのかなと自分も病気を感じた。

 診断後、医師から自分の体をしっかりしておくことが重要だと教えられ、筋トレをする習慣を付けた。週の最後に体を動かすことで「今週もよくやった、来週も頑張ろう」というサイクルを回せるようになった。

 絵を描くことも始めた。それが自分に合った楽しみになった。絵の先生と外に出て一緒に描く。風景があるし、人とのつながりを感じられる。仲間と一緒だと負けられないと思うし、他の人の思いや考え方を新しく教えてもらえる。季節の色やにおいも感じられる。

 このほか、料理をしたり、専門職や地域の人らと集まってまちをよくしていくために語り合う「談義所」の活動に取り組んだりしている。仲間と一緒に走ったり、山に登ったりするのもいい。すっきりとして「自分の脳がよろこんでいる」感じがする。

 希望大使などで認知症の仲間が全国にいる。助けたり、助けられたり。会えることは少なくても同じ心を持った仲間が増えている

 認知症を公表することにあまり抵抗はなかった。認知症は治らないし、状況を変えることはできないから、一緒にやらざるを得ない。認知症とけんかしてもしかたないので「友達」というようにつき合っている。妻も外に出るのを応援してくれるのがうれしい。

 仲間や先輩に元気な人が多く、負けられないというのはある。自分は自分、やれることはやるという考え方だ。いろいろな人がいろんな病気を持っている。自分はたまたま認知症だが、それに負けず、自分らしく生きていきたい。