にいがた市民大学2021認知症とともに〜安心して暮らせる社会づくり ~Vol.9 認知症医療のイノベーション

 認知症発症のメカニズムや予防法、診断方法や治療薬開発の現状について、新潟大学脳研究所教授の池内健さんが解説した。

 

新潟大学脳研究所生命科学リソース研究センター教授

池内 健さん


いけうち・たけし 1964年、兵庫県出身。2000年、新潟大学大学院医学研究科博士課程修了。同大学研究推進機構超域学術院准教授などを経て、13年から現職。20年から同大学医歯学総合病院遺伝医療センター長を兼務。遺伝性アルツハイマー病の国際ネットワーク研究「DIAN(ダイアン)」日本代表を務める。







 






 

新薬開発へチャレンジ続く

 脳の病気を原因とする認知症は、記憶力低下などさまざまな認知機能障害が半年以上続き、日常生活に支障をきたす。アルツハイマー型が約7割を占め、脳血管性、レビー小体型、前頭側頭型などの種類がある。障害を受ける脳の部位は異なり、例えばレビー小体型は、視覚をつかさどる後頭葉が影響を受けるため、幻視が現れる。


■リスク減らし予防

 脳の中では何が起こっているのか。アルツハイマー病では、アミロイドベータ(Aβ)とタウというタンパク質が蓄積し神経細胞が減少、脳が萎縮する。発症の20年ほど前には、Aβがたまり始める。この時期に予防すれば、進行を遅らせる。糖尿病や高血圧といった後天的要因の改善は、認知症予防のヒントとなる。

 認知症のリスクを減らすには、「定期的な運動」「社会活動への参加」「十分な睡眠」「正しい食生活」「生活習慣病の管理」が大事だ。運動は記憶を形成し新しい神経細胞を生み出す脳の海馬の容積を増やす。

  寝不足は認知症につながり、1日6時間以下の睡眠では、Aβが蓄積しやすい。一方でバランスの取れた食生活はリスクを下げる。魚、野菜、果物を食べる頻度が多い人は認知症になりにくい。糖尿病や高血圧など生活習慣病を適切に管理してほしい。



■血液検査で診断も

 もの忘れの訴えがあった場合、①認知症か否か②病型は何か③重症度―という診断ステップを経て、治療を行う。診断には認知機能、血液、脳脊髄液、脳波、画像などの各検査を用いる。

 画像診断ではCTやMRIで脳の形態を確認。血流を測定し、脳の働きを調べるSPECT(スペクト)やAβ、タウの沈着を可視化する分子イメージングなど、必要に応じ、検査する。技術の進歩により、血液検査で認知症診断を行う「血液マーカー」も可能になった。

 治療薬にも触れたい。現在使われている薬は、意欲を向上させるタイプと気持ちを穏やかにさせるタイプがある。これらは「症状改善薬」といい、病気そのものを治すわけではない。病気を根本的に治す「疾患修飾薬」が求められている。

 アルツハイマー病では、Aβに続きタウが蓄積、神経細胞が死滅し、認知機能が低下する。疾患修飾薬には、Aβを作らせない「ベース阻害剤」、Aβを除去する「抗体療法(免疫療法)」があるが、開発は苦戦している。

 挑戦が続く中、新薬「アデュカヌマブ」が2021年6月、米食品医薬品局(FDA)に承認された。Aβの減少効果に基づいたもので、症状が改善するかについては、新たな臨床実験による検証が必要となる。

 この他にも、有望な新薬候補の治験が進んでいる。新潟大学が日本の代表機関を務める「ダイアン治療研究」では今後、抗タウ抗体新薬の治験に参加する。疾患修飾薬の実用化へ向けた取り組みが進んでおり、治療法の選択肢が増えることが期待される。