認知症当事者らの思い

暮らしやすい社会へ一歩一歩


 認知症になっても暮らしやすい社会を目指し、新潟日報社が2017年から取り組んできた啓発キャンペーン「つなぐ広げるオレンジの輪」。「一人ひとりがパートナー」として、私たちに何が求められているのでしょうか。新潟市秋葉区在住で認知症当事者の中澤将さん、認知症専門医として多くの当事者と接している新潟市中央区のみどり病院院長の成瀬聡さん、認知症の人と家族の会新潟県支部副代表の等々力務さんの3人に、それぞれの立場から感じていることや今後の展望などを語ってもらいました。

 
普通の仲間として接して

認知症当事者

中澤 将さん(87)=新潟市秋葉区=

 8年ほど前、妻が認知症の検査を受けることになり、私もついでに受けました。「お父さんも、軽いけど認知症です」と言われました。アルツハイマー型です。医師からは①人前でしゃべる②好奇心を持つ③運動する―を心掛ければ怖くないと言われました。認知症は病気だから仕方がない。ただ他の病気と同じく、負けないように闘わなくてはいけないと思いました。一番は「妻を支えるには自分が頑張らなくては」という思いでした。

 認知症と診断されてからボウリング教室に参加し、体操教室にも通っています。年齢的にも他の人のようにはできませんが、上手な人を見て教えてもらっています。毎日6㌔半を歩き、人に会えば話すようにしています。好奇心はつきません。

 認知症には悪いイメージがありますが、病気の一つだということを分かってほしいです。病気になれば誰もが治す努力をするでしょう。認知症ももうだめだと諦めて引きこもれば、人と話す機会がなくなり、悪化してしまいます。

 認知症の人への見守りや支援があるのはいいことでしょうが、それよりは普通の仲間として接してほしいです。病気を理解してもらった上で、特別扱いするのではなく分け隔てなく接してもらいたい。できないことはスルーし、何か一緒にできることは仲間としてやらせてもらいたいです。

 私は今、娘に勧められ、集落の人の協力を得て、これまでの経験を残すために自分史を書いています。忘れた漢字は辞書を引いて調べます。定期的に通院し、薬は飲んでいますが、こうして自分でも脳が活性化されたのではないかと思っています。

 最近のことは覚えていられなかったり、他人が言っていることを正しく理解できなかったりしますが、生きづらさを感じることはありません。家族をはじめ、多くの人に助けられて生きている幸せに感謝しています。


 

主体的に関われる場重要

総合リハビリテーションセンター・みど病院院長

成瀬 聡さん(61)

 障害者や子ども、生活困窮者などを含めた共生社会の実現が求められていますが、認知症の人が住みやすい社会であれば、多くの人がより住みやすくなると思います。この5年間で県内で認知症への理解が進んできたのは確かですが、認知症になっても暮らしやすい社会への取り組みはまだ始まったばかり。住民や企業の協力は欠かせません。

 認知症の早期発見がいわれ、病院の外来でも初期で診断される人が増えています。認知症の診断後から介護保険を使うまでをどう過ごせるか。デイサービスなど介護保険の枠組みとは違う、認知症の人が収入ややりがいを得られる場をもっと増やす必要があります。認知症でも昔からやってきたことは上手にできます。特技や趣味を生かし、他人の役に立つことに主体的に取り組める居場所。農業従事者が多い本県では「農福連携」の取り組みももっと広げられたらいいのではないでしょうか。

 新型コロナウイルス禍では認知症の人の症状の悪化傾向も見られます。孤立しがちな本人や家族への支援も重要です。困りごとの相談に応じる地域包括支援センターも知名度はまだ低く、どこに相談すればいいか分からないという人もいます。社会とつながれるよう、社会側がアプローチすることが求められています。

 一方で行政の認知症施策には自治体で温度差もあります。居場所の有無、社会から孤立している人はいないか、認知症予防の取り組みはどうか。市町村や地域による格差が生まれてはいけません。

 国は2019年に「認知症施策推進大綱」を策定。認知症施策について専門家や家族が当事者の意向を代弁する形から、本人の意見を重んじるように変わってきました。各市町村は長期的なビジョンを持って地域の実情に応じた計画を立て、取り組み後もしっかり検証することで推進大綱の実現を目指してほしいと思います。


 
地域で見守る環境整備を

認知症の人と家族の会新潟県支部副代表

等々力 務さん(46)

 認知症の人と家族の会では県内各地で本人や介護者の交流会を開き、それぞれが直面する悩みや思いなどを語り合っています。

 かつてはタブー視されていた認知症ですが、近年は病気自体や本人、家族への理解が進んできていることを実感しています。特に家族に対しては社会がいたわりの気持ちを持ち、温かい目で見るようになりました。新聞などの啓発によるところは大きいと思います。

 一方で、偏見はまだ根強いです。何でもできるのに近所の人から「火に気を付けろ」と言われて傷ついたとか、サークルで変な目で見られて行けなくなったといった話も聞きます。偏見を恐れて公表しにくい実態もあります。認知症の家族が行方不明になった時に詳しい情報開示を嫌がり、関係者だけで探そうという人はまだ多いです。

 認知症は見た目では分かりません。治療の特効薬がない中、医療だけでなく、周囲の環境づくりや関わり方も大切。地域で互いに笑顔であいさつし、声を掛け合うことで認知症の人は情緒が安定するし、行方不明者の事故防止や発見にもつながるのです。地域の中に一つでも見守りの目を増やしていくことが大切です。

 そのためには地域の企業や日常生活に関わる銀行や交通機関などの協力も必要です。若い世代への啓発も課題。全ての人がサポーターであってほしいです。

 地域の茶の間など認知症の有無に関わらず、誰もが来られる場を広げることも求められています。私たち家族の会も本人や家族だけでなく、認知症を取り巻く地域づくりに関心がある人にも来てもらいたいです。

 認知症になっても地域で暮らせる社会の実現は重要ですが、在宅介護のしんどさは今も昔も変わりません。地域のみんなで見守る環境づくりは本人を助けるだけでなく、家族を孤立させず、支える意味でも大切だと思います。


 

新潟日報社では認知症への理解や地域共生社会の実現を「にいがた元気プラス」プロジェクトの柱に据え、今後も啓発に力を注いでいきます。