アルツハイマー病 治療の現在

 認知症の原因のおよそ7割を占めるのがアルツハイマー病です。

これまで症状を和らげる薬はありましたが、原因に直接慟き掛け進行を抑える薬はなく、治療薬「アデュカヌマブ」の米国承認が大きなニュースとなりました。新潟大学脳研究所生命科学リソース研究センターの池内健教授(認知症学)に、新薬承認の意味合いや実用までの課題、他の新薬開発を含めた認知症治療の現状と展望について解説してもらいました。

 

新潟大学脳研究

生命科学リソース研究センター

池内 健 教授


いけうち・たけし

1964年、兵庫県身。2000年、新潟大学大学院医学研究科博士課程修了。同大学研究推進機構超域学術院准教授などを経て、13年から現職。20年から同大学医歯学総合病院遺伝研究センター長を兼任。遺伝性アルツハイマー病の国際ネットワーク研究「DIAN(ダイアン)」日本代表を務める。




 

新薬承認「大きな一歩」

価格、有効性になお課題


 認知症と診断されても、薬がなく「後は介護」という時代がありました。1999年、認知症の症状を和らげる治療薬アリセプトが使われ始め、大きな転換期を迎えました。その後、メマリー、レミニール、リバスタッチ、イクセロンが登場し、現在は症状に応じて薬を使い分けています。

■アミロイドβ除去

 これらの薬は、「症状改善薬」といい、認知症自体が治るわけではありません。アルツハイマー病になると、記憶力が低下しますが、これは脳の中の神経細胞が死滅し、情報を伝える神経伝達物質が減少するからです。薬で伝達物質を増やせば症状は一時的に穏やかになりますが、もの忘れが全くなくなるわけではありません。

 アルツハイマー病では症状が出る20年ほど前から、アミロイドベータ(Aβ)というタンパク質がたまっていきます。Aβがたまっても、認知機能にあまり影響はありませんが、別のタンパク質であるタウが蓄積すると、神経細胞が減り、認知機能が低下します。タウの蓄積レベルと脳の萎縮は密接に関わっています。

 症状改善薬に対し病気を根本的に治すのが「疾患修飾薬」です。この薬は「上流を止めれば症状が改善される」という考えに基づき、開発が進められています。このうち、Aβそのものを作らせないのがベース阻害剤、できたAβを除去するのが抗体療法(免疫療法)であり、現在は後者が主流です。


■進む修飾薬の開発

 6月に米食品医薬品局(FDA)に承認されたアデュカヌマブは抗体療法の新薬です。安全性を確認する第1相の治験では、Aβが大幅に減少したため、第2相を割愛。節3相では二つの治験とも見込みがないと中止されましたが、その後、追加症例を解析した結果、一つの臨床試験で有効性が認められました。新薬承認は大きな一歩であり、軽度認知障害(MCI)を含めた早期の治療に期待されています。

 ただ、認知機能に有効かどうかを確認するため今後、検証試験が必要です。また、脳のむくみや出血など副作用が起きる場合があるほか、年間の費用が約610万円と高額です。日本では年内にも可否が判断される見通しですが、対象者を絞り、使用時のガイドラインを作成するなど条件付きで承認される可能性が高いです。アデュカヌマブのほか、ドナネマブ、レカネマブといったAβを減らす新薬開発も進められています。


■タウ抗体薬治験ヘ

 早期の方が対象となるAβに加え、より適用範囲が広く、認知機能への効果が反映しやすいタウの治療開発がこれから、重要となってきます。新潟大学は、タウを除去するエーザイの抗体薬「E2814」の開発へ向け、来春にも治験を開始する予定です。遺伝性アルツハイマー病の人を対象とし、東京大学とともに4年間ほど取り組みます。

 新潟大学脳研究所は、Aβやタウ蓄積などの脳内の変化を反映するバイオマーカーの国内開発をけん引しています。また、遺伝性アルツハイマー病の国際ネットワーク研究「DIAN(ダイアン)」にも参加しています。世界とタイムラグなく認知症の治療開発を進めていく。それがわれわれ研究者の大切な役目だと考えています。


 

感染禍のオンライン面会

新たなつながりに期待


 新型ウイルスの影響により認知症の人の外出が制限されています。生理的にマスクをするのを好まず、デイサービスに行っても、相手がマスクを着けていると誰か分からず不安になる。施設の入所者も家族と会えず、症状が進行する人もいます。

 直接触れ合うことが何よりですが、オンライン面会など、新たなつながりが生まれました。リモートなら、地方に住む認知症の人が、専門医に相談することもでき、地域の医療間格差をなくせます。新型ウイルスの終息を見据え、選択肢が増えるのは良いことです。